はんだごてリポート

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なぜ迷惑撮り鉄は存在するのか、その原因と対策

はじめに

世の中では「迷惑撮り鉄」による撮り鉄のマナー悪化が取り沙汰されている.この問題について何が原因で引き起こされているのか,対策として何が必要なのかを,実際に撮り鉄を趣味の一つに持つ私が,鉄道の知識がない一般の方も理解できるよう解説していきたい.一つ注意しておきたいが,この記事は迷惑撮り鉄を擁護する意図は一切ない列車の運行を妨げる行為は基本的にすべて犯罪であるし,一般の客や駅員に迷惑をかける行為も非難されるべきだと考えている.
また,この記事は最初から最後まで完全に私の主観で構成されており,統計的な解析や実験を用いた科学的な考察を行ったわけではないので,ご了承いただきたい.

撮り鉄の分類について

一般的に鉄道オタクの存在は世間に既に周知されていて,「○○鉄」なる鉄道オタクの中の分類をさす用語も浸透しつつあるが,撮り鉄とは読んで字の如く,鉄道に関するものや風景を撮影する趣味者の総称である.

その撮り鉄を分類する2つのパラメタがあると個人的には考えている.

  • パラメタその1・芸術指向

芸術性と一口に言っても様々な解釈が存在するのは百も承知であるが,例えていうならば展覧会や個展などで展示するための受け手に印象を与えるような風景としての鉄道写真を撮ろうとしているかということである.

  • パラメタその2・記録指向

こちらは,「何年何月何日にどこにどんな列車が通ったか」とか「2010年ごろの風景」といった情報としての写真を求めているということである.余談であるが,英国に端を発する鉄道,その英国では"Spotting"という趣味が1940年代ごろから広まっていったそうだ.これは「何月何日何時何分に***という機関車が通った」などの記録をメモする趣味のことを指す.持つものがメモ帳とペンからカメラに変わっただけで古来から人間のやることは変わらないらしい.

この2つのパラメタによってその人の撮り鉄の方向性が確定できると考えている.例えば撮り鉄Aさんは芸術指向100・記録指向0,撮り鉄Bさんは芸術指向25・記録指向50といった具合である.ではこの2つの方向性によって何が違うのかというと,芸術指向寄りであると表現の方法そのものが重要視されるため撮り方の幅が広いが,記録指向の場合,被写体がどこを通ったかなどの情報が重要視され,写真の様式がテンプレート化されているため撮り方の幅は狭くなるという点である.この違いはこの後の章で重要になるので覚えておいていただきたい.

どういった列車が撮り鉄に人気なのか

唐突にプロ野球の話を持ち込むが,坂本勇人選手は広く野球ファンに人気である.しかし2軍の名が売れない育成選手は人気がない.こうした人気不人気はどの界隈にも存在することで,当然鉄道趣味の中にも存在する.ではどういった列車が人気なのかを解説しよう.それは一口に行ってしまえば珍しいか珍しくないかの違いである.
「珍しい列車」と一口に言っても様々な事例があるのでいくつか細かく見てみよう.オタッキーな話が多いので読み飛ばしてもらっても構わない.

  • 形式が珍しいケース

例えばJRであれば,その線区によって用いる列車はある程度定まっている.京浜東北線には「E233系」という車両が走っていて,山手線には「E235系」という車両が走っている.だが京葉線には「E233系」という車両が大多数の中,1本だけ「209系」という車両が走っている.なぜ1本だけなのかは長くなるので省略するがこれは珍しいと称するに値する.

  • 状況が珍しいケース

鉄道はダイヤだったり使う車両だったりが事前に決められてるものであるから,なにかイレギュラーなことが起こると記録する価値が生まれる.例えば大規模な工事によって通常ダイヤには無い行き先の列車が走ったり,京浜東北線しか走らないはずの車両が山手線を走行するケースなどがこれに該当する.

  • その車両に特徴があるケース

中央総武線各駅停車にはE231系という車両が用いられているが,この中に1編成のみ試作編成が含まれていてる.こういった「試作」だったり「外観の特徴」が存在すると形式的には珍しくなくても人気の車両となる.

  • 速報性があるケース

会社員に人事異動や健康診断が付き物なように,鉄道車両にも人事異動(使う線区の変更)や健康診断(メンテナンスのための工場入り)が存在する.もっと言えばリストラ(廃車)も….ともかくこう言った鉄道車両の動向は撮り鉄のみならず広く鉄道趣味者の興味の対象となる上,普段機関車につなぐことのない鉄道車両が機関車に引っ張られたり,普段走行しない路線を走行したりすることが多いため珍しいケースとなる(2つ目の項目「状況が珍しいケース」と似てますね).

この他にも珍しい被写体(ラストランなど)はたくさんあるが,長くなるためこの辺りでやめておこう.
ところでこれらの珍しいケースはかけ合わさることもある.それぞれのケースで用いた例えで説明すると,「京葉線の209系がメンテナンスのために工場入り」,「E231系試作車が工事の影響で珍しい行き先を表示」などといった具合で,こんなことが起こるとたくさんの撮り鉄がシャッターチャンスを求めてカメラを構えることとなる.

撮影地は慢性的に不足してる

前の項で「記録指向は撮影様式がテンプレ化している」と述べたがここでそれを回収する.
だいたいどんなテンプレートが存在するのかというと

  • 駅のホームは背景に入れない,入れる場合は反対側のホームから


左の写真より右の写真の方が好ましいとされる

  • 架線柱は車両にかからないのがベスト,かかる場合は目立たないように
  • 晴れている場合,車両の前面と側面に光線が当たるのがベスト,最低限前面だけでも


左の写真(逆光)よりも右の写真(順光)の方が好ましいとされる

といった具合である.

ここであげた要素もほんの一部に過ぎないが,とにもかくにも他の撮り鉄に見せても恥ずかしくない写真(私はこれにこだわらなくても恥ずかしくないとは思うが)を撮ろうとするとこれぐらいのことをクリアしなくてはならない.そしてこれらの条件をクリアする撮影場所を探すと,当然スポットは限られてくるわけである.高崎線宇都宮線といった郊外に伸びる路線は都心に近い部分で混雑が起こっても,都心から離れた撮影場所へ行く選択肢も取れるのだが,山手線などの都心のみを走る路線は撮影地が限られているため撮り鉄の一極集中が起こりやすいと言える.さらに,夜に走る列車となると,光源の問題から基本的に駅でしか撮影できないため特に混雑するケースが目立つ.この夜の状況が非常に厄介で,駅には当然の如く一般の乗客も利用しており,そんな罪のない一般人が不運にもフレームの中に入ったりしてしまうと,混雑していて勝手に苛立ってる撮り鉄から理不尽な罵声を浴びることも少なくない.非常に嘆かわしい事態である.

撮り鉄の人口が増えている

撮り鉄を始めるためには当然カメラが必要である.その昔はカメラを用意するのにも一苦労だったが,近年はコンパクトデジカメの登場などでそのハードルは低くなった.さらに,今や持っていないと人格まで疑われそうなレベルまでその地位を高めたスマートフォンに高機能のカメラが備わっており,撮り鉄へのハードルはもはや限りなく0に近づいた.ただでさえ不足してる撮影地に,人口が増加している撮り鉄が殺到したらどうなるか,想像はたやすい.個人的にはこの項目が一番大きいファクターだと考えていて,人口が増えりゃそりゃマナーが悪い輩の数も増えるわけです.もっとも昭和の時代から迷惑撮り鉄は存在していたのでこれだけが理由ではないのですが.

混雑した撮影地で撮り鉄が起こす行動

  • 一番ありがちなケース

撮り鉄Aくんは山手線E231系のラストランを撮るために有名撮影スポットの御徒町駅に出向いたが,すでに先客が数人いて自分の撮りたいような構図で写真が撮れない.
Aくん「うーん,ちょっと黄色い線からはみ出るけどちょっと線路側に寄れば撮れるぞ」
Aくんは危険であると感じながらも自分の撮りたい写真のために黄色い線を出てしまった.

リスクがあると分かっていながら,また誰かの迷惑になると分かっていながら自分の利益のためになにかのルールを破ってしまうという行動は社会にあふれています.公道でゴミをポイ捨てするとか,赤信号だけど横断歩道を渡ったとか,コンビニで傘が誰かに取られてしまったから誰かの傘を取ってしまったとか.冒頭でも書いたようにこのAくんの行動を肯定・擁護する気は一切ありませんが,心理的な問題としてみたらありふれた行動であると言えると思います.(くどいようですが擁護ではありません,別の例を挙げた後続きます)

  • ネットでよく炎上しているケース

撮り鉄Aくんはカシオペアクルーズという列車を撮るために○○線の△△駅〜××駅へと向かった.混雑が予想されるため場所取りを目的に列車通過の3時間前から待機していた.いざ目的の列車が通過するそのとき,線路に並走している小道を軽トラが通過しフレームに入ってしまい,撮り鉄Aくんを含めたその場にいた撮り鉄が大声で軽トラのドライバーに罵声を浴びせた.

これは個人的に最も醜いケースだと思います.長時間待機した結果満足な結果が得られなかったという事実だけを見れば気の毒ではありますが,それがなんの罪もないただ仕事をしているだけのドライバーに罵詈雑言を浴びせていい理由には決してなりません.何より自動車が通れる道に沿って○○線が走っているこの撮影地を選んだ時点でそのリスクを考慮していない撮り鉄側の不備でしかありません.まぁ私の個人的な意見はともかくとして,これは主に群衆心理的な切り口で説明できるものでしょう.「暴動」というと大袈裟かもしれませんがそれに近い現象でないかと思われます.ネット上でよく見かける「イキり」という言葉と関連性が高い行動にも思えます。一般社会ではたいていカーストがごちゃ混ぜになっており,鉄道オタクと言うのは大抵の場合下のカーストにいますから調子にのるなんてことはないのですが,撮り鉄が密集している場所なら悪態をつくこと・怒声をあげることに対して心理的ハードルが下がるのでしょう.

(こういった心理以外の,「構図の邪魔だから標識を引っこ抜いた」「ラストラン走行中の列車の窓から身を乗り出した」「ラストラン走行中の列車で『鉄オタ専用車両です!!』と馬鹿騒ぎする」といったケースは私にも解説不能なレベルで論外なので言及しません)

一般社会にも存在する心理である以上,撮り鉄側の自制を期待することは,同じ撮り鉄としては非常に残念な気持ちになりますが全く無意味であると思います.つまり,迷惑撮り鉄対策は,鉄道会社側やあるいは行政が規制や取り締まりを厳しくし,撮り鉄を徹底的に管理する以外の方法はないと考えるべきです.

タバコのポイ捨てと同じです.どんなにマナー向上を徹底してもポイ捨ては無くならないし,路上喫煙もなくなりません.じゃあ行政や企業がどうしたかといえば徹底的に喫煙者を管理する方針をとったのです.禁煙喫煙で席をわけ,喫煙スペースを設け,路上喫煙は条例で禁止することとしました.

撮り鉄に置き換えると具体的には,

  • 鉄道のイベントはすべてファミリー向けに設定する
  • 珍しい列車が走る場合は駅構内を撮影禁止にする
  • ラストランヘッドマークなどの鉄道ファン向けのサービスは廃止する
  • 危険な行為をした者に対し法的措置を取る

といったところでしょうか.

規制を厳しくする場合,鉄道会社は余計な支出が増えるわけですが,列車の定時運行を妨げる行為が頻発している以上,鉄道会社側にそれ相応の対応を求める声が上がっても不思議ではありません.列車の定時運行を妨げる人身事故を減らすためにホームドア設置を要求することとレベルは違えど同じことではないでしょうか.(そのホームドアを設置すれば少なくとも駅での撮り鉄トラブルは回避できそうな気もしますが)

そもそも昨今の鉄道ブームにおいて撮り鉄がどれほど鉄道会社の売り上げに貢献しているのでしょうか?撮り鉄混雑によって迷惑撮り鉄問題が発生する都心の鉄道の場合,通勤通学客の輸送や別のビジネスで十分売り上げがあるわけで,撮り鉄なんていてもいなくても影響はないように思えます.売り上げが伸び悩んでいるような地方鉄道は話が変わってくるでしょうけど.

さいごに

撮り鉄を長年やってきて,マナーの悪い同業者をたくさんみてきました.線路に乱入する者,車掌に中指を立てる者,注意した鉄道会社の社員に暴言を吐く者.私も出来た人間ではないため,全部が全部注意したわけではありません.しかし何回かそういった者にやんわりと注意した時,周りの同業者は決まって見て見ぬふりをしました.注意する行為から別の問題に発展する可能性もありますから見て見ぬふりが100パーセント悪いこととは言いませんが,あの白けた空気になんとも言えぬ絶望感を覚えました.ネット上では自治厨自治したがる者のこと)のレッテルを貼られる始末です.以来,撮影者が多いような局面での撮影は避けて,だれもいないようなところでばかり撮影しています.私自身こんな偉そうな提言をする立場にないことは重々承知していますが,昨今の撮り鉄問題には色々と思うことがあり,ここまで長々と文章を書きました.もちろんこの記事は私の主観で書かれていますから,これ以外の要因や分析もあるでしょうし,事実と異なることもあるかもしれないことは承知しています.

この趣味は鉄道会社の理解があって成立していると言うことを我々は決して忘れてはなりません.秩序をなくした暁に待っているのは手厳しい規制であると肝に銘じるべきです.



最後までお読みいただき,ありがとうございました.